量子コンピュータを実用化するうえで避けて通れないのが「量子誤り訂正」です。量子ビット(キュービット)はノイズに極めて弱く、計算の途中で情報が壊れてしまいます。そこで複数の物理的な量子ビットをまとめて一つの信頼できる「論理量子ビット」を作り、エラーを検出・修正する仕組みが必要になります。その代表格が、平面上に格子状に量子ビットを並べる「表面符号(サーフェスコード)」と呼ばれる方式です。
従来の表面符号では、各量子ビットが隣接する4つの量子ビットとつながる「4接続(four-valent)」構造が一般的でした。しかし、量子ビット同士の配線が多いほどチップ設計は複雑になり、余計なノイズや製造難度の増加を招きます。近年の研究で、接続数を3本に減らした「3接続(trivalent)」構造でも誤り訂正が原理的に可能だと分かってきました。本論文は、この3接続アーキテクチャで論理量子ビット同士を結合させる操作(後述)をどう実現するかに正面から取り組んだものです。
鍵となるのが「格子手術(lattice surgery)」という技術です。これは、隣り合う2つの論理量子ビットの境界を測定によって一時的に「縫い合わせ」、両者をもつれさせて計算に使う操作を指します。論理量子ビット間で演算を行うための基本手段であり、大規模な量子計算には不可欠です。著者らは、この格子手術を3接続構造で実行するための、規模を拡張しやすい回路構成を新たに提案しました。
成果を数量で見ると、符号距離(誤り訂正の強さを示す指標。dで表す)に対して、必要な量子ビット数を全体のO(d²)のうちO(d)だけ、2量子ビットゲート(2つの量子ビットにまたがる操作)の数を全体のO(d³)のうちO(d)だけ削減できるとしています。つまり、大きな符号ほど絶対的な削減量が効いてくる、資源節約型の設計というわけです。
さらに著者らは、実在の超伝導量子ビットの一種である「フラクソニウム(fluxonium)」を想定した現実的なシミュレーションで両方式の論理的な忠実度(計算の正確さ)を比較しました。その結果、符号距離3の場合に最大で約25%の改善が見込めることを示しています。フラクソニウムはコヒーレンス時間(量子状態を保てる時間)が長いことで注目される方式で、実装に近い条件での評価である点が説得力を高めています。
この研究は、配線がシンプルな平面型の3接続チップ上でも、表面符号にもとづく論理量子プロセッサを構築できる道筋を示したものです。ハードウェアの製造しやすさと誤り訂正の効率を両立させる方向性として、今後の量子プロセッサ設計に実用的な示唆を与える成果といえるでしょう。




